金正日との「グランド・バーゲン」は可能か

執筆者:平井久志2009年11月号

もはや交渉相手の「翻意」は期待できない。国内の工業・農業事情が深刻さを増す中、金総書記は最後の闘争を仕掛けるが――。 十月五日、北朝鮮の金正日総書記は、中朝国交樹立六十周年を記念して訪朝した中国の温家宝首相との会談で「米朝協議の行方をみながら、六カ国協議を含む多国間の会談を行なう用意がある」と語った。 金総書記は九月に訪朝した中国の戴秉国国務委員との会談でも「二国間および多国間の対話を通じた問題解決」を表明している。六カ国協議に復帰する可能性を改めてちらつかせ米朝協議を実現させようとする今回の発言は、わずかな譲歩で大きな対価を獲得しようとする北の「サラミ外交」の典型であった。 北朝鮮は温首相を手厚くもてなした。元首でもない温首相の到着を、金総書記が直接出迎えた。北では知らない人のいない映画『花を売る乙女』の主演女優、洪英姫が温首相に花束を渡し、宿所までの沿道には数十万人の平壌市民が出て熱烈に歓迎した。温首相が四日に観覧した「血の海歌劇団」の歌劇「紅楼夢」は、訪朝に合わせて金総書記が指導した作品だ。五日に観覧したマスゲーム「アリラン」では「中朝親善の章」が追加され、人文字で漢字を浮かび上がらせた。

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