意外に狭い米国・ヤジの許容度

執筆者:徳岡孝夫2009年11月号

 初めて会った相手と心安く握手する。腰を下ろすと足を組み、十分も話すか話さないうちに互いにファースト・ネームで呼び合う。ざっくばらん。世の中にアメリカ人ほど無作法で無礼な人種はいないと思っていた。 バーネット夫人が書いて若松賎子が訳した『小公子』も、英国貴族ドリンコート侯爵がニューヨークから来た我が孫セドリックの馴れ馴れしい態度に驚き、腹を立てることで始まる。 マナーやディーセンシーという英単語の存在を知らないわけではないが、ついアメリカには礼儀も作法もないのだと思っていた。だからオバマ大統領の議会演説を野次ったジョー・ウィルソン下院議員(サウスカロライナ、共和党)の一言でアメリカが上を下への大騒ぎになるとは――私は昼寝の最中を叩き起されたように感じた。 そのときオバマ氏は、健康保険制度の改革について熱弁をふるっていた。彼が説くのは国民皆保険、すなわち日本がとっくに持っている制度への移行である。現在は、たとえばIBMの社員なら、風邪からガンまで、あらゆる医療機関で診てもらうことが(健康保険により)可能である。だが彼の家へ毎日掃除に来るオバサンは、健保に入っていないから、医者代は一セントまで自腹である。

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