米国に広がる「ドーハ・ラウンド手じまい論」

執筆者:加瀬友一2009年12月号

自由貿易の強力な推進者だった米国がおとなしい。政府だけでなく産業界までやる気がないのは、すでに「その先」へと狙いを移したからだ。「サミット」という名前が、いささか大げさに感じられるような奇妙なイベントだった。十月十三日から二日間、米国のワシントンで開かれた「グローバル・サービス・サミット」。全米からサービス企業の代表者が集まり、世界各国の政府の大物もゲストとして駆けつける大がかりなシンポジウムである。「米経済の七五%はサービス産業が占めるというのに、貿易での比率は三〇%にすぎない。我々はグローバル経済のサービス市場にかかったカギを開けようとしているのだ」 米通商代表部(USTR)のロン・カーク代表は会議の冒頭で、こう高らかに謳いあげた。世界の貿易自由化交渉でサービス産業を重視し、貿易相手国の市場をこじ開けるというオバマ政権の勇ましい決意表明とも聞こえる。 だが、カーク代表の熱弁とは裏腹に、シンポジウムの会場には、どこか白けた空気が漂っていた。世界貿易機関(WTO)のラミー事務局長やインドのシャルマ商工相、欧州連合(EU)欧州委員会のアシュトン通商担当委員ら、そうそうたる顔ぶれが次々と壇上に登場したが、熱気が高揚する場面は最後までみられなかった。

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