中国――海洋から始まる「覇権の移動」

執筆者:会田弘継2010年9月16日

 いまや世界経済を牽引するのはアジアだ。 リーマン・ショックからまだ立ち直れず、2番底が懸念される米経済。ギリシャ財政危機で馬脚をあらわした統合欧州経済の脆弱さ。欧米経済はお寒いかぎりの様相だ。だが、アジアに目を転じれば、まったく違った光景が目に映る。中国は今年も9-10%の成長を遂げそうだ。インド経済も8-9%の成長が見込まれ、好調だ。
 そうした中でこの8月半ば、中国が日本を抜いて、いよいよ世界第2の経済大国となることがはっきりした。

2つの「パラダイム・シフト」

 欧米からアジアへ、日本から中国へ。世界構造に大きなパラダイム・シフトが起きているのか。単に経済だけでなく、軍事バランスも含め、このグローバルな変化の意味をどのように見て、どう対処するべきか。そうした論調や言説が、国際論壇に目立った。
『大国の興亡』の著者で米イェール大教授のポール・ケネディは、英王立国際問題研究所の発行する「ザ・ワールド・トゥディ」8‐9月号であらためて、生産力で他を圧倒する国が出現すれば、政治・軍事上の力のバランスはその国の方へと着実に傾いていくと主張した。 【The World Today , Aug. – Sept. Rise & Fall, Paul Kennedy】
 生産力の急伸長とともに、いま「巨額の資本黒字」が中国や日本、韓国に蓄積している。「余剰貯蓄にともなって、必ず政治・軍事力のバランスに変化が起きることを、いかなる歴史家でも指摘せざるを得ない」。オランダからイギリス、イギリスからアメリカへの覇権移動は、そのようにして起きた。
 そうした覇権移動の時、軍事バランスの変化は、海洋でみられる。「欧州の海軍力は急激に消え失せているが、その意味についてまともな議論ひとつ起きていない。アジアの海軍力は爆発的に拡大し、活動範囲も広げているが、これまた誰も議論したがらない」。大航海時代以来続いた欧米優位の500年の歴史が終わろうとしている、とケネディはいう。いま、世界の中心はアジアと中国に移りつつある。
 そんな大激変の時代にアメリカには「キッシンジャー以来……戦略的思考ができる人物はいない……民主国家は戦争に巻き込まれでもしなければ、戦略思考ができないのか」と、碩学はいらだちを隠さない。

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