紛争研究、平和研究

執筆者:平野克己2010年10月15日

 6年前に南アフリカに赴任したとき、私の後任としてアジア経済研究所(通称アジ研)のアフリカ研究グループ長を引き継いでくれたのが、武内進一君だった。現在は、請われてJICA研究所に出向している。
 武内君は東京外大フランス語学科の出身で、チュニジアの日本大使館で派遣員として働いたあとアジ研に入り、研究者としてのキャリアを仏語圏アフリカの農業農村研究から始めた。しかし、最初の研究対象国に選んだザイール(現コンゴ民主共和国)が政情不安に陥り、かわりに赴任したコンゴ共和国では内戦に巻き込まれた。このときの過酷な実体験が彼を紛争研究に向かわしめるのである。アフリカ農産物流通に関する論文を仕上げてから彼は、一転、1994年に起こったルワンダ大虐殺を研究テーマにすえた。

 ルワンダ農村をまわって虐殺の傷跡をみずからの目と足で検証していたころの彼の姿は、強く印象に残っている。あるとき、むしられたような無残な髪を頭にのせて帰国したので「すわ!襲われたか」と思ったが、「調査中に邪魔くさいので自分でジャキジャキ切った」とのこと。よくもまぁあの頭で通勤してきたものだ。
 数冊の編著をアジ研から出したが、その後彼の研究成果は分厚な博士論文となって結実し、2008年に東大から博士号を授かった。この論文は『現代アフリカの紛争と国家』となって出版され、2009年のサントリー学芸賞を受賞した。サントリー学芸賞がアフリカ研究に与えられたのはおそらく初めてだ。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。