航空荷物爆弾事件でイエメン当局に起訴されたアウラキ容疑者 (C)AFP=時事
航空荷物爆弾事件でイエメン当局に起訴されたアウラキ容疑者 (C)AFP=時事

 新手のテロ未遂事件はサウジアラビア情報機関のトップ、モハメド王子からジョン・ブレナン米大統領補佐官(テロ対策担当)に直接かかってきた電話による情報伝達で分かった。王子は補佐官がかつて米中央情報局(CIA)リヤド支局長をしていた時代からの友人だ。 「爆弾テロ工作発覚」との通報で、米国、中東、欧州全域で大捜索が開始された結果、10月29日英中部イーストミッドランズ空港に駐機中の航空機内と、アラブ首長国連邦(UAE)ドバイにある米運輸大手フェデックスの荷物集配施設で爆弾が見つかった。  プリンター用のトナーカートリッジに高性能爆薬PETNを詰めた爆弾。イエメン発で、シカゴのユダヤ教会に宛てた空輸荷物だった。爆弾を空輸で送り込む、新しいテロだ。  犯行声明を出した「アラビア半島のアル・カエダ(AQAP)」は4日後の中間選挙を狙ったに違いない。オバマ大統領にとっても、ホワイトハウスが端緒を掴んで、事件を防止した手柄を挙げたのだから、自分の指導力を誇示する絶好の材料だったはずだ。だが、この現職の大統領は宣伝材料に使わなかった。  恐らく、この事件に隠された複雑な事情が大統領を慎重にさせたのだろう。  日本の大手メディアは全く言及しなかったが、「イエメン発」と聞いただけでこの爆弾テロ未遂事件の首謀者はすぐ分かった。  イエメンと米国の二重国籍を持つアンワル・アル・アウラキ容疑者(39)である。父はイエメン農相、首都のサヌア大学長を歴任した農業経済学者。フルブライト奨学生として米ニューメキシコ州立大に留学中、アウラキ容疑者が生まれた。一家はいったんイエメンに帰国後、アウラキは渡米しコロラド州立大で土木学を修め、ジョージ・ワシントン大博士課程で人的資源開発を研究した。イスラム教原理主義者で、若いイスラム戦士に人気が高いが、正式の聖職者ではない。  昨年11月、テキサス州フォートフッド陸軍基地で銃乱射事件を起こした軍医や、クリスマスの日に起きた米旅客機爆破未遂事件の犯人(ナイジェリア人)、ニューヨークのタイムズスクエアで発見された自動車爆弾事件の犯人(パキスタン系米国人)らをそそのかした疑いが持たれており、オバマ大統領はCIAに対してアウラキ殺害指令を出した。  この指令は、米国内の司法手続きも経ずに死刑を命じたのと同じことであり、米国内の人権団体、全米公民権連盟(ACLU)が殺害指令を無効とする訴えを起こしている。  今度の航空荷物爆弾事件を受けて、イエメン刑事当局は11月2日、外国人を目標にした犯罪行為を実行する武装組織を結成したとしてアウラキ本人不在のまま起訴した。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。