菅政権が膝を屈した「人事院支配」の実態

執筆者:原英史2010年12月1日

 臨時国会は、11月26日、仙谷由人官房長官と馬淵澄夫国土交通大臣に対する問責決議可決により、事実上の休会状態に向かいそうだ。問責可決の直前、補正予算は成立。政府・与党としては、この国会での最低限の任務は果たしたつもりなのかもしれない。
 補正予算とセットで、「給与法改正」も成立した。菅直人総理大臣が、9月の民主党代表選公約で「人事院勧告を超える削減」を掲げながら、結局、「人事院勧告どおり(年収ベース平均▲1.5%)」の法案を提出。「早くも有言不実行」と問題視された法案だ。
 野党の対応は分かれた。みんなの党は、人事院勧告を超えて「幹部職員は▲10%、その他職員は▲5%」とする修正案を提出。一方、公明党は「人事院勧告尊重」の立場から政府案賛成に回った。自民党は、政府案には反対したが、そうかと言って、採決に反対して法案成立を妨げようともしなかった。これは、「仮に政府案が成立しなければ、▲1.5%削減すら実現しない」という点を気にしたためだ。
 こうして、給与法改正案は、野党の一部からの協力も受けて、衆参両院で可決成立に至った。

「勧告どおり」はただの先送り

「人事院勧告どおり」となった理由は、周知のとおり、労働基本権の制約だ。公務員は、労働基本権が制約されており、給与その他の労働条件を自ら使用者と交渉して決めることができない。そこで、人事院が、民間の給与水準を調査して、民間並みになるよう「勧告」を行なう仕組みになっている。
 もっとも、勧告はあくまで勧告に過ぎず、「そのとおりに国会で給与法を決めなければならない」とはどこにも書いていない。現に、鈴木善幸内閣当時、財政非常事態を理由に、人事院勧告どおりにしなかった(引き上げの勧告に対して、据え置きにした)ことがある。また、同様の仕組みの地方公務員について、片山善博知事時代の鳥取県をはじめ、勧告を超える引き下げを断行した例もある。
 それでも、今回、政府の出した結論は、「この臨時国会では、人事院勧告どおり」というものだった。「『勧告を超える削減』という異例の措置をとるなら、まず、労使交渉で、労働者側の納得を得る努力を重ねる必要がある。今臨時国会では、そのための時間が足りない」というわけだ。
 そこで、
・2段ロケット方式として、今臨時国会ではとりあえず人事院勧告どおり▲1.5%引き下げ、次期通常国会で更に深掘り削減する法案を提出する、
・さらに、労働基本権を拡大して、それ以降は、労使交渉で給与を引き下げていく、
 という3段構えの方針が示された。
 要するに、「人事院勧告どおり」というだけでは明白な公約違反になってしまうので、その先の意気込みも示して乗り切ろうとしたわけだが、いわゆる「問題の先送り」にほかならない。結局、公務員労組の意向に反して、「勧告を超える削減」を断行するだけのパワーが無かったというだけのことだ。

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