「三、二、一、〇!」。二〇〇〇年一月一日午前零時。首相官邸の官房長官室には、新たな千年紀(ミレニアム)の到来を告げるNHKテレビ「ゆく年くる年」のカウントダウンを合図に、一斉に賀詞を交換する政府、与党幹部の姿があった。

「あけましておめでとうございます」満面に笑みを浮かべた小渕恵三首相を中心に、政府側からは青木幹雄官房長官や松谷蒼一郎官房副長官ら、与党側からは自民党の森喜朗幹事長と亀井静香政調会長、公明党の冬柴鐵三幹事長と坂口力政審会長、自由党の藤井裕久幹事長の各党三役に、自民党の陰の司令塔、野中広務幹事長代理や参院のドン、村上正邦参院議員会長らが年賀の輪に加わっていた。コンピューターの誤作動に起因する不測の事態に備え、厳戒態勢を敷いていた官邸の中でただ一カ所、この部屋からはひとしきり賑やかな談笑の声が上がった。

 三党揃っての年越しを演出したのは部屋の主の青木氏だ。官邸別棟に設置されたコンピューター二〇〇〇年問題対策室の視察を終え、各党本部に戻ろうとした三党幹部を「せっかくだから総理と会っていかれてはどうか」と引き留め、自室に誘ったのである。

 竹下登元首相の秘書出身で、日頃から師匠譲りの細やかな気配りに定評がある青木氏だが、この日は特に念が入っていた。カウントダウン後、青木氏は居並ぶ与党幹部にNHKで生中継される零時五十分からの首相会見に陪席するよう勧め、事務方に命じ会見場に急きょ椅子を運ばせた。

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