「総理の病状、検査の結果について申し上げます。病名は『脳梗塞』であります。現在、集中治療室で治療を受けておられます」

 四月三日午前十一時、首相官邸で記者会見に臨んだ青木幹雄官房長官は、二日未明に緊急入院した小渕恵三首相の病状について説明を始めた。

 ほとんど睡眠時間を取れなかったのだろう。青ざめた顔にはうっすらと脂が浮いている。青木氏は続けて、二日夜に入院先の東京・本郷の順天堂医院を見舞った際に、まだ意識があった首相から「有珠山噴火対策など一刻もゆるがせにできないので、検査の結果によっては臨時代理の任に当たるように」と直接指示を受けたこと、首相の指示に従って三日午前九時に首相臨時代理に就任したことを説明。「小渕総理のご回復をお祈りするとともに、宮沢蔵相はじめ各閣僚のご協力をいただきながら国政の課題に全力を傾けて参る覚悟だ」と結んだ。

「意識はあるのか」など病状に関する質問に、青木氏は「治療の内容は一切病院にお任せしている」「素人なので私に詳しいことは分からない」とノーコメントを通したが、病名が二日深夜の会見での「過労」から「脳梗塞」に変わったことに報道陣は色めき立った。故田中角栄元首相がそうだったように、脳梗塞は助かっても重度の後遺症が残る可能性が高い。「正式な検査結果は出ていない」としながら、万事に慎重な青木氏が病名を口にしたのは、公務復帰は無理と判断してのことに違いない。夕刊各紙には「首相、脳こうそく」「後継問題浮上」の活字が踊った。

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