六月十日午前九時四十六分、森喜朗首相は全日空便で地元の小松空港に降り立った。四月五日の首相就任以来初のお国入り。到着ロビーに巨漢の首相が姿を現わすと、詰め掛けた支持者から一斉に「万歳」の声が挙がり、日の丸の小旗が打ち振られた。

 谷本正憲石川県知事や市町村長、県議団も顔を揃え、その場で開かれた歓迎セレモニーでも、「ご心配を掛けております。私の気持ち、心情を一番分かって下さっているのは皆さん。日本の国を良くしたいと頑張っています」と神妙にあいさつした首相に、「総理、三流マスコミに負けるな」と掛け声が飛び、大きな拍手が沸き起こった。

 熱烈歓迎に目を細め、相好を崩す首相。やはり張り合いが違うのだろう。五市町村、十二カ所を駆け回る過密日程ながら、首相はこの日、各所で予定時間を超える熱弁を振るい、「総選挙後に財政首脳会議を開き、大幅に予算を組み替えてみたい。日本新生プランのための特別予算もつくりたい」と夢を語った。会場はどこも超満員。出身地の根上町では、予定会場の収容人員七百人をはるかに上回る町民が押し寄せ、急遽、会場を変更したほどだった。

 森人気恐るべし。しかし、それは地元に限った現象だった。六月二日の衆院解散以降、首相が選挙遊説に訪れた都道府県はこの日の石川を含めわずかに三県。選挙直前に愛人スキャンダルが発覚し、「あんな人に来られたら票が逃げる」と全く声が掛からなかった一九八九年参院選当時の宇野宗佑首相に比べればまだましだったが、野党党首が連日、全国遊説に駆け回っている中で、そのスケジュールの寂しさは際立っていた。

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