「悪い意味での権利意識」が介護サービス事業者の経営を圧迫している 四月からスタートした介護保険。厚生省は、「目立ったトラブルは起きていない」としているが、水面下では制度の屋台骨を揺るがしかねない事態が進行している。在宅介護の主要サービスであるホームヘルプ(訪問介護)を提供する民間事業者が、相次いで事業を縮小しているからだ。その原因は、利用されるサービスが単価の高い「身体介護」ではなく、単価の安い「家事援助」に集中、事業の採算を圧迫していることにある。 安いサービスを使うのは、消費行動として当然だが、問題はその中身。要介護者の家族の分の洗濯をヘルパーにさせたり、庭の草むしりや犬の散歩など、およそ社会保険の対象とは考えにくい利用が目立つ。つまり、高齢者側の“わがまま”に事業者が翻弄されているわけだ。厚生省は医師会と違って政治力のない介護事業者の窮状には、あまり関心を示していないが、このまま採算が合わなければ、制度そのものが崩壊する危険性さえ孕んでいる。 家事援助を巡る問題に、早くから気がついていた人物がいる。昨年秋の介護保険見直し騒動の中心となった亀井静香自民党政調会長だ。もっとも、亀井氏はサービス事業者の採算を気にしたわけではない。「老人の介護は家族がするのが日本の美風」という持論から、ヘルパーの家事援助そのものを「社会保険で家政婦を派遣する行き過ぎたサービス」と考え、給付を制限すべきだと主張したのだ。ただ、亀井氏が給付制限を言い出したのは今年二月。さすがに制度を改正する時間はなく、見切り発車となった。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。