中国核スパイ事件の不可解な結末

執筆者:春名幹男2000年10月号

 アメリカ政界を揺るがした中国核スパイ事件は、「大山鳴動してネズミ一匹」の結果となった。疑惑の中心人物とされた台湾生まれのアメリカ人コンピューター技師、ウェンホー・リー被告(六〇)に対する起訴事実五十九件のうち、検察側が立証できたのは、一件の軽微な犯罪のみ。リー氏は九月に保釈された。日本のメディアも「中国系という理由だけで人種差別の生け贄にされた」とずさんな捜査による冤罪を非難する報道をした。 しかし、法的にはともかく、インテリジェンスの面から見ると、事件はミステリーや疑問だらけだ。 第一に、事件は、昨年第6号の本欄で指摘したように、中国人「ウォークイン」からの情報提供が端緒だった。中国がなぜ自ら手の内を明かしたのか、その意図はなお不明だ。 第二は、リー氏が一九八二年以来、米連邦捜査局(FBI)の捜査の対象となり、一時期はFBIへの情報協力者になっていたことだ。リー氏の行動はなお疑惑に包まれている。 第三は、事件を担当したニューメキシコ州アルバカーキ地区検事ジョン・ケリー氏は、クリントン大統領の学友で、リー氏を起訴した後、辞任し、民主党から下院議員選に出馬した。リー氏を起訴した裏には「政治的意図があった」と米保守派は疑っている。

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