ウェルチの退任延期は老害にあらず

執筆者:喜文康隆2000年11月号

 ジャック・ウェルチ。二十世紀最強の経営者の一人である彼をこの連載で取り上げるのは、もうすこし先のことと思っていた。 彼が二十年間にわたって引っ張ってきたゼネラル・エレクトリック(GE)の強さの秘密は、あらゆるところで語りつくされている。株式市場もウェルチの経営手腕を称え、第二位のシスコシステムズを大きく引き離して時価総額世界第一位の座をGEに与えている。当のウェルチは来年春、つまり二十一世紀の初頭を機に引退することを発表し、バトンタッチする意中の人発表も秒読みの段階に入っていた。 いまさらウェルチについて付け加えることなどない――。そう思っていたのだが、わずかの間で事情は変わった。「アメリカン・ドリーム」を体現 きっかけは、GE系の経済チャンネルCNBCのスクープである。十月十九日の夕刻、GEのライバル会社でもあるユナイテッド・テクノロジー(UT)社が、米ハネウェル社を総額四〇〇億ドルで買収することを報じたのだ。二十一日にハネウェル社の取締役会で承認した上で、二十三日正式発表するスケジュールまで煮詰まっていたといわれる。 ニュースが報道されたときに、ウェルチはレセプションでニューヨーク証券取引所にいた。「われわれはいつだってM&Aを考えている」。感想を求められたウェルチはこう答えたが、この時点まではハネウェル買収のニュースをまったく知らなかった。

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