農林水産省“高木長期体制”の弊害

執筆者:生田忠秀2000年11月号

省庁再編を目前にして農林水産省が揺れている。しかも、その元凶となっているのは誰であろう高木勇樹事務次官その人なのだ。実力次官の任期が異例の長さとなる中で、省内には人事問題を中心に不満が燻り、このまま行けば、三流官庁への転落すら懸念される。 十月六日金曜日午後三時、農林水産省三階の事務次官室を訪れた。長方形のテーブルを挟んだ応接セットの窓側に高木勇樹事務次官が立っていた。 初対面だったが、高木氏は簡単な挨拶を終えると、背広を脱ぎワイシャツ姿で次官専用の椅子に腰を下ろした。「まず、これを見てください」と高木氏は筆者に一枚の文書を差し出した。それは昨年六月に多数の国会議員に配布されたといわれる、高木氏の退任を求める「怪文書」のようだった。高木氏は「これも見てください」といって、高木氏を批判する「怪文書」を数枚、次々と筆者の前に重ねていく。あたかも、捜査検事が被疑者に証拠書類を突きつけるかのような物腰である。 高木氏は「怪文書」を積み終えると、今度はある雑誌社が掲載した記事に対して抗議した際に取り付けたと思われる「念書」のような文書を差し出した。 筆者は高木氏の不躾な態度に戸惑うとともに、何故、初対面の人間に「怪文書」「念書」を突きつけてくるのか、その真意をはかりかねていた。「怪文書」は広く撒かれたのだろうが、「念書」はあくまでも雑誌社と農水省広報室が取り交わした「私的」文書のはずだ。それを初対面の筆者に見せるのは、信義に反するのではないのか。中央官庁の頂点に立つ事務次官の振る舞いとしては、まったく解せないものだった。

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