過去十年余り、浮上しては消え去った台湾・李登輝氏の訪日問題。今回も査証(ビザ)発給が実現しなかった背景には、中国の強い圧力に日本が屈したという従来のパターンに加え、招請に正面から立ち向かった中国問題専門家、中嶋嶺雄氏(東京外語大学長)と李登輝氏との間で微妙な意思のズレがあったようだ。日本の一学者と前台湾総統の交わりという類まれな信頼関係も、日中台のパワーゲームには対抗できなかった。 李登輝訪日問題に関して、中国側はかなり早い段階から日本に対して外交圧力をかけていた。一九七二年九月、日中国交正常化の際の「日中共同声明」の精神に照らしても、日台間の民間交流・往来は保証されている。まして今年五月に総統を引退し、国民党主席の座からも降りて、一民間人となった李登輝氏にとって、訪日は支障がないはずだった。だからこそ中国側は「李登輝は一般人とは言えない」(朱鎔基首相)との強引な論理で日本を牽制したのだった。 当然ながら最も敏感に反応したのが外務省だった。十月十八日に中嶋氏が記者会見を開き、十月下旬に長野県松本市で開催の日台有識者会議「アジア・オープン・フォーラム」に参加するため、同月二十三日に李氏が訪日ビザを申請すると発表した後の動きは極めて早かった。翌十九日午前には、東京にある「台北駐日経済文化代表処」(羅福全代表)が、李氏はビザ申請をする気などない旨のプレスリリースを報道各社に送った。

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