対ロシア外交の日独格差

執筆者:名越健郎2001年2月号

カリーニングラード返還で前進したドイツと北方領土返還で失敗した日本 第二次世界大戦の敗戦国である日本とドイツが二十一世紀初頭、戦争によってロシアに奪われた領土問題で全く異なる対応を示している。日本外務省が「二島先行返還論」を提示して、結果的に北方領土問題を後退させ、二十世紀末までの平和条約締結に失敗したのに対し、ドイツはロシアの飛び地である旧ドイツ領カリーニングラードの「経済的領有権」獲得に向けて水面下で着々と動いていることが判明した。ソ連邦崩壊前後という領土問題解決の好機に、東西両独の統一に成功したドイツと、何もしなかった日本の外交能力が、十年後に再び試されつつある。 英紙サンデー・テレグラフは冷戦時代、ソ連国家保安委員会(KGB)のエージェントといわれた故ビクター・ルイスをモスクワ特派員に抱え、東側情報でクレムリン肝煎りのスクープを飛ばしたことで知られるが、一月二十一日付の同紙が報じたカリーニングラードをめぐる独ロの秘密交渉説は各国に衝撃を与えた。 同紙によれば、独ロ両国は、ドイツがロシアの対独債務の一部を帳消しにするのと引き換えに、ドイツがカリーニングラードで主要な経済プレーヤーになることを狙った構想を進めており、一月六日、モスクワで行なわれた独ロ首脳会談で討議されたという。経済的困窮が進むカリーニングラード州の経済運営や再開発でドイツが主導権を握り、「実質的な返還」を達成する構想だと同紙は伝えている。シュレーダー首相はプーチン大統領に対し、欧州連合(EU)とカリーニングラードが「連合協定」を結ぶことで、この構想を進めるよう打診したとされる。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。