クローン人間という大凶事

執筆者:徳岡孝夫2001年4月号

 世界中の人々が期待をこめ、もし世くは恐怖に震えつつ、手に汗を握って待っている――「世界初のクローン赤ちゃん誕生!」のニュースを。 二十世紀の人類は、原子を割るのに成功した。二十一世紀にはクローン技術を使って、判で押したような「そっくり人間」を生産するのだろうか。欧米の科学者が、きっと真っ先にやるはずだ。 カナダには、クローン人間の誕生を支援する宗教団体があって「今年のクリスマスまでには」産声を聞かせるという。レースはすでに始まった。生殖医学専門家たちは、いまリンドバーグの同僚の飛行士か、アラモゴード前の物理学者みたいに目の色を変えている。誰が歴史に名を刻むか? もう時間の問題である。 第一号が誕生すれば、必ず続く者がいる。億万長者の奥さんが「息子が事故で死んだ。もう一人つくってくれ」と、細胞と一千万ドルを出したら――抵抗できる科学者が何人いるか。ゼニになれば、理屈はどうにでもつく。 ところが、三月二十六日ニューヨーク発のロイター電は「ニューヨーク・タイムズ」のクローン批判を伝えた。語るのは主にハワイ大学で動物実験中のヤナギマチ・リューゾーという人だから、日本人か日系人である。 彼は三年前にマウスのクローンをつくり、その後の成長を観察してきたが、人間の年齢にして三十歳に相当するところに来ると、急に太り出すという。普通のマウスと同じ餌なのに、中には超肥満になるのもいる。

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