いまだ正解なきIT革命の本質

執筆者:梅田望夫2001年5月号

 ニューエコノミー論に伴う陶酔感、ネットバブル崩壊、米国経済失速という流れの源泉がIT革命であるだけに、IT革命の本質は何なのか、過去の何が誤っていて何が正しかったのか、日米で議論が沸騰している。 その議論の数々を見聞きして痛感するのは、結果論を語ることの安直さである。ある程度結末らしきものが見えた「現在という地点の高み」から、過去の試行錯誤を見下すような評論家や学者の視線には強い違和感を覚える。 震源地シリコンバレーでIT革命のプロセスに添い寝するようにして生きてきた私には、九四年から足掛け八年にわたって繰り広げられた試行錯誤のひとつひとつに、感傷とも言っていいほどの思い入れがある。節目節目に起こった大きな出来事を思い出すに、すべてが必然だったとまでは言わないが、その時点での叡智が集約された上で仮説が構築され、検証に莫大なカネと知恵が真摯に投入されたことも、事実として忘れてはいけないと思う。 IT革命とはフロンティアそのものであり、私たちはまだその本質を実は何も理解できずに佇んでいるのである。足掛け八年をドッグイヤー(七倍速)的スピードで過ごしてきたにもかかわらず、相変わらず正解など存在しない新しい世界が、私たち一人一人の前に広がっている。証明されたことといえば「大企業が人員削減も辞さずにIT化とグローバル化を徹底推進すれば著しく収益性が向上する」という実践的で夢のない現実だけである。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。