「わが国の政府システムはすべて自由選挙に依拠している。大統領選挙の妨害や大陪審での偽証は許されない」――米テキサス州オースティン連邦地裁のサム・スパークス判事は八月三十一日、そう被告人をたしなめ、禁固一年、罰金三千ドルを言い渡した。 これで、米国の一部メディアで、「ブッシュ選対に潜り込んだモウル(モグラ、敵陣営に潜入するスパイ)」「ディベートゲート事件」などと騒がれた不可解な事件はあっけない幕切れとなった。アリ・フライシャー米大統領報道官も「最も傷付き、失望したのはブッシュ陣営だった」と簡単な声明を発表、一件落着させたかに見える。 ところが、被告のフアニタ・イベット・ロザノ(三一)だけは、涙をこらえながら「どの選挙も苦しい思い出を残すだけだわ」と意味深長なコメントを残したのである。 本当のところは、動機、背後関係など興味津々のナゾを残したままなのだ。 事件が表面化したのはちょうど一年前の九月十三日のこと。民主党大統領候補、ゴア副大統領陣営の幹部、トム・ダウニー元下院議員のワシントン事務所に郵便小包が速達で送られてきた。ダウニー氏が包みを開けると、文書とビデオテープが出てきた。 百二十ページ強の「コミュニケーションブック」と題する文書は、ブッシュ陣営がまとめた選挙戦略、討論用の参考ファクト類・ポイント、反論の技術――といった内容。ビデオは約六十分で、ブッシュ氏が行なった討論の練習風景を撮したもの。

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