「21世紀地政学」に臨むアメリカ

執筆者:船橋洋一2001年11月号

対テロ戦争は米国に、新たな戦略課題を突きつけている。イスラム社会を国際システムに組み込めるか。そして自国民の団結と連帯をいかにして維持するのか。国際政治のパラダイムが激しくきしむ――。[ワシントン発]九月十一日はここを発ちすでに欧州に行っていたから、一カ月半近くワシントンには帰っていなかった。一つのテロ行為がこうまで国民の気分を激変させるものか。 IMF(国際通貨基金)のエコノミストをしている友人は、いささか哲学的になっていた。「人間というのは誰しも死ぬ運命にあるのに、そしてそれは誰にとっても最大の関心事であるにもかかわらず、私たちは日常そのことをそれほど深く考えずに生活していく術を知っている。しかし、あの日以来、メディアでは毎日、テロだ、炭疽菌だ、注意しよう、警戒しようとそればかりだ。人々は常に死ぬということを意識させられ、それと背中合わせに生きている」 テロ戦争においては、本土が前線であり、前方も後方もない。国民だれもが戦闘員であり、戦闘員も非戦闘員もない。米国は戦時と平時を同時に営む非条理を生きている。「冷戦が終わり、冷戦後も終わった」とコリン・パウエル国務長官は言った。 米国とロシアの関係はたしかに冷戦も冷戦後も終わったように映る。テロに対する米ロの協調路線は固まりつつある。ミサイル防衛をめぐる対立を克服し、戦略核とミサイル防衛における合意が生まれる可能性も出てきた。そこからさらにロシアとNATO(北大西洋条約機構)との新たな共存関係をも視野に入れた関係が生まれるかもしれない。

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