BSデジタル狂騒曲

執筆者:2001年12月号

あの騒ぎはいったい何だったのか――鳴り物入りで始まったBSデジタル放送が早くも一年で青息吐息だ。電波利権を確保するため奔走した民放キー局のなかには、“撤退”を模索する動きが出始めた。 BS(放送衛星)デジタル放送用の受信機の販売低迷が続き、“BSショック”が業界に広がったこの夏、あるBSデジタル局の社長が親会社である民放の幹部に泣きついた。「増資をしてくれないと、数年で債務超過に陥るのは目に見えている」 この会社は昨年十二月の放送開始以来、九月までに六十億―七十億円まで債務が拡大、今年度中に百億円を突破する勢いだ。一局あたり百億円近いといわれるデジタル化の設備投資の償却負担に加え、売り物であるハイビジョンや双方向機能を満載した番組制作にカネがかかるのが原因だ。赤字を補填するはずの広告収入も不況下で目減りしている。当初計画ではなんとか三年間もたせる資本金を予想以上に早く食いつぶす可能性がでてきた。 民放系の五局は程度の差こそあれ、懐具合はどこも似たり寄ったり。大株主のキー局にしても、二〇〇二年三月に始まる次期CS(通信衛星)デジタル放送や二〇〇三年に開始予定の地上波放送のデジタル化など、数千億円規模の新規設備投資に追われている。一九六〇年のカラー化以来の「放送革命」といわれたBSデジタル放送は、九八年に郵政省(現総務省)が民間企業の申請受付を開始。当時すでに一千万世帯に近い視聴者を獲得していたNHKのBSアナログ放送を横目でみながら「もっと波(電波)を」と叫び続けてきた民放キー局五社がそろって免許認可を受け、鳴り物入りで放送を始めた一年前が、今は昔といった風情だ。

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