最先端のバイオテクノロジーは、はたして生物兵器の脅威を封じ得るのか。炭疽菌テロに揺れる米国で、産学を総動員した対抗策の開発が本格化している。[ワシントン発]体中のあらゆる組織、器官から出血して死ぬ伝染病、エボラ出血熱。アフリカなどで散発的に感染者が出ているこの病気のもとになるウイルスと、天然痘ウイルスの両方の性質を合わせ強力な殺傷力を持たせた“ハイブリッド型ウイルス”を作るプロジェクトが旧ソ連にあった――。米議会公聴会や官民の対策会議における米軍関係者や旧ソ連のバイオテロ兵器専門家の証言から、こんな計画の存在が明らかになってきた。 幸い、このウイルスは実用化されていないというが、炭疽菌テロで米政府は、遺伝子組み換えなど最先端のバイオテクノロジーを使って性質を改変した菌が見つかることを何よりも恐れた。感染症対策の中核機関、米疾病対策センター(CDC)の幹部らは、「シプロフロクサシンやドキシサイクリンといった代表的な抗生物質が炭疽菌を弱らせるのがわかってホッとした」という。もし抗生物質が効きにくいように手を加えてあったら、感染者を救うのは極めて難しくなるところだった。 ただ、炭疽菌についてはまだまだわからないことが山ほどある。今回のテロで五人の死者を出した肺炭疽病は米国では一九七八年以降、一件も発症例がなかった。二十世紀を通しても発症の報告は十八件だけ。感染した場合にどうなるか確かなことは言えない。

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