米欧を裂く「反ユダヤ主義」

執筆者:田中明彦2002年6月号

 アラファト議長の軟禁状態は終わり、徐々に中東和平に向けた動きが出てきてはいるが、依然としてパレスチナとイスラエルの深刻な状態は変わらない。外交努力は継続しているが、楽観は許されない。この中東情勢の急速な悪化の過程で生じた一つの憂慮すべき事態は、アメリカとヨーロッパの間にみられる見解の相違である。フランスの大統領選挙は、結局シラク大統領の再選ということで決着したが、第一回目の投票でルペン候補が大きく得票を伸ばしたこともこれに影響を与えていた。 筆者にとって最も憂鬱であったのは、中東問題をきっかけにアメリカとヨーロッパの間で再び「反ユダヤ主義」のテーマで議論が起こったことであった。はっきりと問題提起をしたのは『ニューヨーク・タイムズ』紙の社説であった。「ヨーロッパにおける最近の反ユダヤ主義の行為は、ホロコースト六十年後の今日、ホロコーストを生み出した悪意にみちた嫌悪感情が復活しているのではないかと懸念させる」と指摘した(“Anti-Semitism in Europe”『インターナショナル・ヘラルド・トリビューン(IHT)』、四月二十二日)。 同紙社説は、パレスチナ人への同情を示したり、イスラエル政府の軍事行動への批判をすること自体は、まったく問題ないと指摘しつつも、いまやヨーロッパには反ユダヤ主義というしかないような行動が目立っていると論じている。ヨーロッパにおけるシナゴーグ(礼拝所)の破壊活動、ユダヤ人やイスラエルへの批判を、かつてのユダヤ人に対する歴史的批判とからめて行なう論評などである。このようなヨーロッパのムードは「ユダヤ人もまた残酷な行為をすると見ることによって、ホロコーストに対する罪悪感が和らげられる」という感情に影響されているのではないかと同紙社説は指摘し、「ヨーロッパの多くは、慎重に振舞う特別の責任があるのだ」と論じたのである。

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