「退位」拒むローマ法王の悲願

執筆者:2002年8月号

冷戦終結にも貢献したバチカン外交は、グローバリズム時代の新たな青写真をいまだ描けていない。ロシア正教、中国との雪解けも遠く、深刻な健康問題を抱えたヨハネ・パウロ二世の苦闘は続く――。[ミラノ発]一陣のつむじ風が吹き抜けると、鉛色の空に白い帽子が舞い上がった。慌てて後を追いかける関係者たち。帽子を奪われた第二百六十四代ローマ法王、ヨハネ・パウロ二世(八二)はなす術もなく、その様子を見守っていた。五月二十二日、カスピ海西岸にあるアゼルバイジャンの首都バクーの飛行場を訪れた際の出来事だ。この時、ローマ法王庁(バチカン)内には、健康不安に端を発した法王退位説の嵐が吹き荒れていた。手詰まりに陥った世界戦略「困難に直面し、苦しんでいる時でも、私はあなたがた信者を必要とする。聖ペトロも聖パウロも多くの苦難を耐え、神の助力で使命を最後まで全うした」――。六月三十日、バチカンのサンピエトロ広場。日曜日恒例の演説で法王はこう強調し、根強い退位説を改めて打ち消した。 現法王への退位論が浮上したのは、これが初めてではない。二〇〇〇年一月にはドイツのカール・レーマン司教(現枢機卿)が退位を勧告する発言をしたと報じられた。同年十月にはベルギーのダンネールス枢機卿が対談集の中で「法王が来年退位しても驚きではない」と表明、国内外のメディアをにぎわせた。

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