冷戦終結にも貢献したバチカン外交は、グローバリズム時代の新たな青写真をいまだ描けていない。ロシア正教、中国との雪解けも遠く、深刻な健康問題を抱えたヨハネ・パウロ二世の苦闘は続く――。[ミラノ発]一陣のつむじ風が吹き抜けると、鉛色の空に白い帽子が舞い上がった。慌てて後を追いかける関係者たち。帽子を奪われた第二百六十四代ローマ法王、ヨハネ・パウロ二世(八二)はなす術もなく、その様子を見守っていた。五月二十二日、カスピ海西岸にあるアゼルバイジャンの首都バクーの飛行場を訪れた際の出来事だ。この時、ローマ法王庁(バチカン)内には、健康不安に端を発した法王退位説の嵐が吹き荒れていた。

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