宮城県仙台市立黒松小学校

執筆者:草生亜紀子2002年9月号

「ゆとり教育」の時代、学校の本分とは何なのか――。「学びの遅い子をクラスの『お客さん』にしてはならない」と、教育現場の「やさしい事なかれ主義」を排した校長の学校改革哲学。「学力保証」――黒松小学校はこれを看板に掲げ、習熟度別編成(算数のみ)を行なっている公立小学校だ。子どもを成績順に区分する「差別的」編成との考え方から、習熟度別編成は長い間タブー視されてきた。しかし、学力低下が危惧される昨今、能力別編成こそが子どもを救う道だとの考え方もあり、じわじわと広がりつつある。文部科学省によれば、全国の小学校の半分近くが何らかの形で取り入れているという。その実態はどうなのか、仙台に見に行ってきた。 参観したのは五年生の算数の授業。四学級百二十二人の子どもたちは、FからAまでの六つのクラスへと別れていく。いちばん理解の早いFグループは三十四人。黒板に書かれたマルの数を求める数式を何種類か出していく。授業のテンポは速く、教師の問いにポンポン答が返ってくる。 真ん中のDグループは二十一人。同じ課題に取り組んでいたが、いくつかある数式ひとつひとつの「意味」をじっくり考えていく。 学習するのに時間のかかる子のグループほど、つまりFからAへと移るにつれて一室の児童数は減っていく。いちばん遅いAグループは、わずか五人の少人数編成。ほとんど個人授業のように、基礎的なかけ算の方法について丁寧な指導が行なわれていた。ある女の子がかけ算の概念そのものがわからずに悩んでいた。教師はその子が納得するまで、表現を変えながら説明を続けていた。クラス全員の一斉授業だったら、この子は取り残されていたに違いない。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。