森喜朗前首相は苛立っていた。「何の情報もないと言っているだろ。話すことはないから改造のことは聞くな。君らもこんなばかばかしい取材はやめた方がいい。上の方(上層部)にも言っておけ」 内閣改造二日前の九月二十八日夜、森氏は自宅前で待ち受けた記者団に吐き捨てるように言った。 森氏は小泉純一郎首相が昨年まで二十九年間所属していた旧福田派以来の清和会(現・森派)の先輩。自民党各派の幹部と会おうとしない首相に代わり、宴席を設けては「小泉をよろしく」と頭を下げ、緩衝材の役割を買って出てきた。昨年四月の内閣発足時と同様、「派閥には一切相談しない」とトップダウン人事を宣言した首相も、兄貴分の森氏には多少なりとも気を遣い、胸の内を明かすのではないか。そんな読みから、報道各社は連日、森氏に記者を張り付け取材攻勢を掛けていた。 森氏に情報を期待したのは報道陣ばかりではない。自民党各派や各省庁も森氏や側近の中川秀直前官房長官に頻繁に接触を試みていた。しかし、結局、森氏は最後まで「分からない」と繰り返さざるを得なかった。ストレスが高じたのか、森氏はこの前日の二十七日、中川氏と連れ立って「伊豆へ行く」と記者団に言い残して東京を脱出、温泉とカラオケで憂さを晴らしていた。

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