勝者なきオフィスビル戦争の幕開き

執筆者:杜耕次2003年1月号

丸の内、汐留、品川、六本木――。新たな摩天楼が次々誕生し、予想以上に厳しい「二〇〇三年問題」の現実が明らかになりつつある。不動産大手によるテナント争奪戦は激しさを増し、大会社の本社を引き抜き合う“恐怖の玉突き”も始まっている。「十六年かかったこの『六本木ヒルズ』が二〇〇三年四月二十五日にオープンすることを謹んで予告します」 十二月五日に開かれた記者発表会。作業の足場が組まれ、一部の天井は空調ダクトが剥き出し、外周全面ガラス張りのフロアで、挨拶した森ビル社長の森稔はやや上気した表情でこう宣言した。「十六年」というのは、東京都から「再開発誘導地区」の指定を受けた一九八六年(昭和六十一年)からの歳月。通称「六六開発」と呼ばれたテレビ朝日旧本社を中心とした六本木六丁目再開発は、敷地面積(十一万六千平方メートル)が東京ドームの八個分というプロジェクトの巨大さもさることながら、その計画の難航ぶりで有名だった。 かつての六六界隈は幅四メートル程度の道路沿いに低層木造住宅やマンション、ペンシルビルなどが建ち並んでいた。再開発対象となったエリアの地権者は約六百人といわれ、「普通のデベロッパーなら百人でも逃げ出したくなるが、森さんはオーナーならではのこだわりと執念で事業をまとめ上げた」と旧財閥系の大手不動産会社幹部も敬意を表する。

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