アメリカを売り込む「広告界の女王」

執筆者:ルイーズ・ブランソン2003年2月号

パウエル国務長官の推薦で次官に就任したシャーロット・ビアーズ。広告界で培ったノウハウは、果たして「アメリカ好感キャンペーン」に役立つのか――。[ワシントン発]権威あるナショナル・プレスクラブでの記者会見に臨んだシャーロット・ビアーズは、報道陣の視線を浴びて一瞬、緊張の色を浮かべた。だが、ブランド物のスーツに身を固めた六十六歳の国務次官は、すぐさま「マディソン街の女王」の顔を取り戻した。一九九〇年代、米大手広告代理店「オーグルビー&メーザー」社のCEO(最高経営責任者)として、七年間の在任中に二十億ドルもの収益増を成し遂げたビアーズ女史は、広告業界に知らぬ者のない伝説の人物だ。「本日は、会見にお集まりいただき、ありがとう」――ビアーズ次官は、『風と共に去りぬ』のスカーレット・オハラを彷彿させる南部人特有のゆったりとした口調で話し始めた。その周りには、広告業界でなじんだツールが置かれている。プレゼン用のスクリーンに、大きなボード。そこには「年次実績評価」「イラク」と、会見のテーマが大書されていた。 ビアーズが広報担当の米国務次官に就任したのは、二〇〇一年九月十一日の同時テロからわずか数週間後、アメリカがアフガニスタンへの報復攻撃に踏み切る数日前のことだった。その任務とは、アメリカを売り込むこと。世界的に反米気運が高まる中、それは決してたやすい仕事ではない。ましてや、いかに宣伝のプロとはいえ、これまで扱ってきたのはアンクルベン社の「コメ」にヘッド&ショルダーのシャンプー、そしてIBMのコンピュータである。長年培ったノウハウを活かそうにも、彼女にとっては大いに勝手の違う仕事だっただろう。

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