小泉純一郎首相が最近、呪文のように唱えている言葉がある。「電光影裏斬春風(でんこうえいり、しゅんぷうをきる)」。どんなに凄まじい稲妻に斬られようと、春風は受け流してそよぎ続ける。「あなたも泰然として十五年ぐらい総理大臣を続けなさい。そうでなければ改革はできません」。通常国会開幕直後の一月二十一日、この七文字を自ら揮毫した扁額を手土産に首相官邸を訪れた円覚寺(鎌倉市)の足立慈雲管長から、首相はそう激励された。 円覚寺開祖の禅僧、無学祖元が元の兵士に取り囲まれた際に、「剣で私に斬りかかってきても、春風を斬るようなものだ。斬れるものなら斬ってみよ」と少しも動じず、その姿に兵士の方が怖気づいて逃げ去ったという故事が出典だとの説明を聞きながら、首相は「これはいい。これからは野党から何と言われようと、『春風だ、春風だ』と思えば、どうということはないね」と、満面に笑みを浮かべたものだ。 長期政権の勧めにも、首相は満更でない表情を見せた。「十五年も続けるわけにはいかないが、クリントン在任中の八年間に日本の総理は七人も代わった。知事だって一期四年なんだから、せめてそれくらいやらないと。一年やそこらで『辞めろ』というのはひどすぎるよ」。その口振りには、倒閣姿勢を強める野党陣営への、また九月の自民党総裁選で首相を引き摺り下ろすと公言する亀井静香前政調会長ら党内の反小泉勢力への、静かな闘志と自信が覗いていた。

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