戦後のイラク原油を支配するのは、あくまでも“戦勝国”の米英だろう。だが、石油価格の下落と湾岸産油国の政情不安定化をともなう「力の政策」はハイリスク・ハイリターンの賭けとなり、原油市況の乱高下が避けられない。 二度の世界大戦はもちろん、ベトナム戦争や湾岸戦争もひとつの体制の終わりであり、新しい枠組みの始まりだった。終わったばかりのイラク戦争もフセイン政権という体制に終止符を打った。だが、これから中東で、産油国で、エネルギー市場で、何が始まるのか新しい枠組みはまったく見えて来ない。今後エネルギーの世界で展開するシナリオの幅は極端なほどに広く、不透明だ。 世界のエネルギー関係者の目はまず、イラクの石油がどれだけの早さと規模で原油市場に復帰するか、イラクの油田を誰が支配するのかに向いている。これに対して、ブッシュ政権の内部から聞こえてくるのは、「できるだけ早期の原油生産回復」と「米主導の外資導入、増産プログラム」だ。戦争前のイラクの原油生産量は日量約二百五十万バレル。これが米英軍の侵攻でほぼゼロに落ちたが、バグダッド陥落と前後して生産再開の動きが始まっている。生産停止や放火によって油井はダメージを受けているものの、メジャー(国際石油資本)が技術的な支援を惜しまなければ、年内に戦争前の生産水準に戻ることは可能だろう。

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