米軍もSARSに厳戒態勢をとる理由

執筆者:2003年5月号

 中国や香港を中心に世界で猛威を振るう新型肺炎SARSに、米軍も警戒を強めている。イラク戦争で無敵ぶりを見せつけた米国だが、この敵には専守防衛しか手はないようだ。 米太平洋軍の報道官によると、米軍は中国本土と香港への渡航を個人的な旅行も含めて特別な許可がない限り禁止した。西太平洋などを担当海域とする第七艦隊も感染国・地域を中心に「不必要」な寄港を取りやめた。 米軍にとって特に気がかりなのは、米艦船の補修・給油のための定期寄港地で、米軍要員百二十人も常駐しているシンガポールだ。ここではすでにSARSで八人が死亡しており、感染がここから広がらないように米軍は特例として要員にマスクの着用も認めた。 軍隊組織は集団での生活・行動が原則なので、伝染病はあっという間に広がりかねない。現に、世界中で二千万人以上が死亡した第一次大戦中のインフルエンザの大流行では、米軍兵士も数千人が命を落としたとされる。SARSについては「新手の生物兵器か」との説も流れたが、米軍の対応には生物兵器攻撃への予行演習という意味合いもあるようだ。

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