アラブ世界に人生を捧げた1人の外交官

執筆者:西川恵2003年5月号

 米軍がイラクの首都バグダッドに入ったとのニュースが流れた四月五日、元外務省アラビストで、駐アルジェリア大使を務めた故渡辺伸氏の一周忌の集いが東京・国際文化会館で開かれた。 集いには故人と親交のあったアルジェリアのベンジャマ駐日大使、オマーンのアル・ザラーフィ駐日大使をはじめ、外務省の現役・OBアラビスト多数が参加。心底アラブを愛した故人を偲んだ。 渡辺氏は、一九六四年に外務省入省。アラビア語を修め、エジプト、クウェート、サウジアラビア、アラブ首長国連邦など外交官人生の多くをアラブ諸国で過ごした。氏をよく知る人によると、九六年、最後の任地としてアフリカのある国が提示されたとき、「どこでもいいからアラブの国にしてほしい」と固辞。このためテロが頻発する、任地としては厳しいアルジェリアに回された。しかし氏にはやりがいのあるポストだったようだ。 それを物語るように、四年半の在勤を終えて二〇〇一年六月、退官すると、アルジェリアとの交流、相互理解のため日本―アルジェリア・センターを立ち上げ、『アルジェリア危機の十年』という著書をものした。その出版記念会から十七日後の昨年三月二十五日、ガンで逝った。六十二歳だった。

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