小泉純一郎首相が政権の命運を賭けて、最大派閥・橋本派の実力者、青木幹雄参院幹事長と向かい合ったのは六月九日。初来日した盧武鉉韓国大統領が「これからは『未来』を話し合おう」と、国会演説で「平和と繁栄の北東アジア時代」の実現を呼び掛けた日の夜のことだ。場所はホテルオークラの日本料理店「山里」。「立会人」として首相の出身派閥、森派会長の森喜朗前首相と、森氏の腹心の中川秀直国対委員長が同席した。 九月の自民党総裁選をめぐり首相と青木氏が会うのは四月四日、五月十五日に続き、この日が三度目。過去二回の会談で青木氏は政策転換と人事一新を再選支持の条件として要求していた。「受け入れるのか、戦うのか。総理の存念をしっかりと聞かせてもらう」。この日を「回答期限」とする考えを、青木氏は事前に森氏を通じて伝えていた。 納得できる答えが返ってくれば橋本派を小泉支持でまとめる。そうでない場合は総裁選で一戦を交える展開になるかもしれない。右手に花束、左手にピストルを持って、青木氏は会談に臨んだ。ピストルには「再選不支持」という弾丸に加え、「イラク新法を潰す」という弾が込められていた。青木参院幹事長の本音 五月二十二日から二十三日にかけ、首相は米テキサス州クロフォードのブッシュ大統領の牧場に泊りがけで招かれ、昼・夕食会などを含め延べ十時間にわたる会談を行なった。大統領自らトラックを運転し、東京ドームの約百四十倍もあるという敷地内を案内する歓待ぶり。首相もそれに応えるように、「『世界の中の日米同盟』として関係を強化していこう」という大統領の提案に「大賛成だ」と応じた。イラクへの自衛隊派遣はその象徴。そのための新法制定は大統領との、違えることのできない約束だった。

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