六月中旬、米陸軍フォートマイヤー基地で行なわれたエリック・シンセキ前陸軍参謀総長の退任式は異例ずくめだった。 ラムズフェルド国防長官は姿を見せず、長官周辺からの出席者はゼロ。シンセキ氏の演説テキスト五ページのうち、世話になった政治家や陸軍関係者らの名を挙げて感謝を表明した部分は二ページあまりもあったが、長官への言及は皆無。形式的な感謝の言葉さえひと言もなかった。 強引に陸軍改革を進めようとした長官に徹底的に抵抗、失意のうちに退任した日系の陸軍制服組トップと長官との対立の凄さを物語るシーンだった。 大きな対立点の一つは、特殊部隊をめぐる考え方の違いだった。少数精鋭の機動力を重視するラムズフェルド長官は、シンセキ大将の後任に元特殊作戦軍司令官ピーター・シューメーカー退役大将を指名し、問答無用と言わんばかりに論争を決着させた。 イラク戦争は特殊部隊の勝利だった、と多くの軍事専門家が評価している。 北部クルド人勢力の動きを抑え、トルコの介入を予防した。イラン国境にあるテロ組織アンサール・アル・イスラムの基地を急襲した。油田を確保してイラク軍による放火・破壊工作を未然に防止した。ダム防衛に進撃して、イラク軍がダムを決壊させるのを防いだ。心理作戦も成功した。開戦前、四千万枚以上のビラを撒き、イラク軍兵士に投降を呼び掛けた――など、サクセスストーリーは続く。

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