支える者、なだめすかす者、敵愾心を燃やす者。人間模様が総裁選の行方を決める。 その夜、めったに不快な表情を見せることのない参議院自民党幹事長で橋本派の実力者でもある青木幹雄が、露骨に顔をしかめた。目の前にいる首相、小泉純一郎が青木の話を聞きながら船をこいだのである。父兄参観よろしく小泉に付き添っていた前首相の森喜朗と国会対策委員長の中川秀直が交互に小泉の膝を揺さぶる。「聞いてる、聞いてる」「純ちゃん、国会が終わってほっとしているのはわかるけど、居眠りは青木さんにあまりにも失礼だぞ」 黙っている青木の表情を気にしながら、森は小泉を諫めた。「青木さんはあんたのためを思って厳しいことをおっしゃってるんだ。それなのにその態度は良くない」「わかった、わかった」 会期百九十日の長い国会が終わった七月二十八日の夜、東京・紀尾井町の赤坂プリンスホテルにあるフランス料理店「トリアノン」。遅い時間の食事だったが、だれも料理に手をつけようとしなかった。一カ月に一度は定期的に開いている会合だが、この日の会合は終始、重苦しい雰囲気がつきまとっていた。 永年、竹下登の秘書をつとめてきた青木には、竹下以上に強い出雲訛がある。人前で決して怒った顔を見せない青木は、訛と相まってどこか策士のイメージがつきまとう。しかしながら、青木はどちらかといえば合理的な考え方をする政治家だ。青木には「自分は参議院を預かっている」という意識が強烈だ。参議院の自民党を守る、それが自分の使命だとよく口にする。

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