長い不況が続いているにもかかわらず、あるいは続いているからこそ、祭があちこちで盛り上がっている。正確な統計は存在しないが、おもな開催地に問い合わせてみると、ここ十年前後の観客動員数は右肩上がりの増勢を辿っているところが多い。 町おこしをしたいという商店街や自治体の意気込みもあろうが、それだけが原因ではないだろう。祭で高揚した気分が日常の厳しさを忘れさせてくれるのか、失われた人の和を祭が一時的にも蘇生させてくれる思いがするのか。現代人は祭という壮大なエネルギーの無駄遣いに嬉々としていそしむようになっている。 そのひとつの例が東京・杉並区の高円寺。八月、都内のヒートアイランド現象と足並みを揃えるかのように中央線高円寺駅周辺の商店街には、阿波踊りのお囃子がスピーカーを通じて流れ始める。商店街には「阿波踊りセールス」の、カフェバーには「カウントダウン・フェスティバル」の広告が貼り出され、北口駅前には「東京名物、阿波踊りの町」の大看板が立つ。観覧席を作る鉄パイプが組み上げられ、あちこちに提灯が並ぶようになると、町中に熱気が次第に充満していく。 その熱気がはじけるのが八月二十七、二十八日の二日間。前夜祭も含めると、観客動員数はおよそ百二十万人ともいわれる。普段なら電車を降りて駅構外に出るまで二、三分で済む。ところが昨年は、三十分以上もかかり機動隊が出動したほどである。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。