中国経済に広がる「陶酔状態」の深層

執筆者:遊川和郎2003年10月号

 中国では景気の先行きに強気な見方が充満している。四―六月のGDP(国内総生産)成長率は新型肺炎SARSの影響を受け前四半期の九・九%から六・七%へ急減速したが、一―六月では八・二%、一―九月も八%を超える成長が予想されている。上半期は消費こそ減速したものの、投資は三一・一%増と一九九四年以来の高い伸びを記録、工業生産、輸出も高水準で推移している。こうした状況から、「中国経済は新たな成長サイクル、拡張期に入った」といった論調も多く、「二〇〇八年の北京五輪、二〇一〇年の上海万博までは高成長が続く」という楽観論が大勢を占めている。高成長による一種の陶酔状態と言ってもよい。 その一方で、目先の景気過熱感を示す指標も増えている。経験則ではM2(広義のマネーサプライ)の伸びが名目成長率を六―七%ポイント上回れば過熱とされるが、すでにその差は一〇%ポイントを超えた。また貸出の異常な増加も目立つ。九八年以降、貸出の増加額は年間一―一・三兆元(一元=約十四円)で推移していたが、昨年は一・八五兆元、今年は年間で三―三・五兆元と予想されている。 貸出急増の原因は、「指導部交代効果」と呼ばれるように、昨秋の党大会を受けて地方で新指導部が発足し、新たな投資案件に次々と着工していることである。インフラのみならず自動車ブームや鉄鋼など素材関連の需要増を受け、地方政府主導で新たな設備投資が相次いでいる。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。