それは、わずか二十六時間の公式訪問だったが、各国情報機関に複雑な波紋を広げた。 サウジアラビアのアブドラ皇太子が十月十八日から十九日にかけて行なったパキスタン訪問のことだ。ムシャラフ大統領が自らイスラマバードの空港に出向いてアブドラ皇太子を出迎え、帰途も見送るという熱烈歓迎ぶり以外、表面的にはニュースがなかった。日本では訪問自体報道されなかった。 最初に火をつけたのは、パキスタンのウェブ新聞サウス・アジア・トリビューンだった。パキスタン情報当局がアブドラ皇太子の宿舎であるパンジャブハウスのロイヤルスイートに盗聴器を仕掛け、それがサウジ秘密警察に探知されていた、というのだ。 サウジ秘密警察当局は、皇太子が部屋に入る前に調べて、盗聴器の存在を探知した。サウジ秘密警察は何事もなかったかのように、すべての盗聴器を発見して取り外したという。ただし、この記事の情報源は明らかではない。 このサウジ・パキスタン準首脳会談が注目を集めたのは、全く違う問題だった。 十月二十二日付の米保守系紙ワシントン・タイムズが、サウジが低価格の石油を供給するのと引き替えに、パキスタンはサウジに核兵器技術を提供することで合意した、と報じたのだ。書いたのは同紙とUPI通信の特別編集委員を務めるベテラン特ダネ記者アーノー・ドボーグラーブ氏。報道内容が否定されることを予想して、「合意は両国によって厳しく否定されるだろう」とのパキスタン筋の言葉をわざわざ伝え、予防線を張った。

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