イラク戦争が招いたフランスとドイツの接近

執筆者:国末憲人2004年1月号

ラムズフェルド米国防長官の「古くさい欧州」発言は、仏独に共通の“敵”を認識させた。市民レベルにまで広がる仏独の接近の行方は――[パリ発]この一日は将来、欧州現代史の分岐点として位置づけられるかも知れない。 十月十七日、ブリュッセルで開かれたEU(欧州連合)首脳会議の二日目だった。シュレーダー独首相はこの日、独連邦議会への出席のため退席。彼が自分に代わって独代表の座を依頼したのは、フィッシャー外相でも担当の独大使でもなく、シラク仏大統領だった。大統領は独首相顧問を脇に座らせ、時に「仏独共通の立場として」と前置きし、時に「仏が支持する独の立場として」と前置きし、欧州憲法や移民問題について何度かドイツの立場を代弁する発言をしたという。 欧州は大騒ぎだった。プロディ欧州委員長は「偏狭なナショナリズムを越える新たな第一歩だ」と評価。仏フィガロ紙は「米国を後ろ盾に欧州を支配しようとした英国はどぎまぎしているに違いない」と両国の連携ぶりを称賛した。シラク氏の政敵で反欧州統合論者として知られる仏右翼「国民戦線」のルペン党首は「フランスの元首はフランスの国民以外を代表できない」と批判した。 およそ、首脳会議の代理を他の国の元首に任せるなんてことがあり得るだろうか。それを堂々とやってのけたのが、よりによって往年の敵国同士なのだ。

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