八十五歳の中曾根康弘元首相が十二月十三日の慶応大学での講演で「最近、顔が痩せて明るさがなくなった。気力に変化が出てきたのではないか」と指摘したのは、二回り年下の小泉純一郎首相のことだ。 この四日前、中曾根氏は首相官邸で約二カ月ぶりに小泉首相と顔を合わせた。自民党の七十三歳定年制に従い、衆院選の比例代表名簿(北関東ブロック)への登載を見合わせたいと引退勧告に来た首相を、「突如来て爆弾を投げるようなやり方は総理、総裁としてとるべき態度ではない。政治的テロみたいなものだ」と、ものすごい剣幕で追い返して以来の再会だった。イラクの復興支援に千人規模の自衛隊を派遣するという基本計画の閣議決定に先立ち、首相が中曾根氏を含む五人の歴代首相経験者から意見を拝聴する場を持ったのである。 首相の決断で無念の引退に追い込まれた中曾根氏だが、この日の首相の決断には賛辞を送った。「途中で腰が引けたように感じられたが最後に毅然たる態度が出てきてよかった。基本計画に盛られた自衛隊の装備もよろしい」。これまで十年の自衛隊海外派遣の歴史で、現場から要望が出ても、歴代内閣が物議を醸すことを恐れ認めなかった装甲車などの携行を首相が許可したことを高く評価した。

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