政治とは騙しの技術である。ブッシュ米大統領が年末、リビアが大量破壊兵器の廃棄に合意したと発表した時、改めてそう思った。 大統領は会見でやたら「成果」を強調した。リビアは核兵器を開発していたが、アメリカの強硬な安保戦略に屈して、核兵器・化学兵器開発をすべてやめることになった――。そう印象付けようとする意図なのだ。 だが本当のところ、リビアの核兵器保有はまだ「数年先のこと」と、現場を視察したエルバラダイ国際原子力機関(IAEA)事務局長は真相を漏らしてしまった。 リビアの大量破壊兵器が近隣諸国に脅威を及ぼしていた事実はない。リビアが危険視されたのは、国家テロに関与していたからだ。だがテロに関して、ブッシュ大統領は「リビアは対テロ戦争に全面的に取り組まなければならない」とあっさり言及しただけだった。 当然、リビアのテロで肉親を失った遺族から不満が噴き出した。ブッシュ大統領会見は、一九八八年十二月二十一日のパンナム機爆破テロ十五周年の二日前だったが、大統領は「パンナム103便」に言及しなかった。 なぜリビアが大量破壊兵器の廃棄に合意したのか。大晦日のウォールストリート・ジャーナル紙に、“ブッシュ政権版”の真相が掲載された。それによると、十月初め、ドイツのBBCチャータリング・アンド・ロジスティック社所有の貨物船BBCチャイナ号がペルシャ湾岸の港(未特定)からウラン濃縮用の遠心分離機器部品数千個を積んで出発、スエズ運河を通過した後、情報を入手した米英当局が同社の同意を得て、米海軍艦艇が追跡してイタリアの港に寄港させ、押収した。

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