独仏の両政府が、仏製薬会社サノフィ・サンテラボによる独仏の製薬大手アベンティスへの買収提案に神経を尖らせている。 アベンティスは、ドイツのヘキストとフランスのローヌ・プーランが五年前に合併して誕生した、独仏の融和を民間レベルで象徴する存在。それだけにフランスのメール財務相は買収提案直後、「欧州の利益になる事業統合だ」とラジオ番組で述べ、フランスによる主導権奪取との観測の打ち消しにやっきとなった。二月九日の独仏首脳会談では会談テーマにもなり、シュレーダー独首相が「独仏企業が融合して欧州で強大になるのはいいが、敵対的買収は望ましくない」と懸念を示した。 医薬品業界では、四百八十億ユーロ(約六兆円)という巨額の買収提案も決して不自然ではない。新薬の開発のために十億ドル単位の資金が必要になっている現在、製薬会社は規模の拡大を求めざるを得ない。中堅に位置するサノフィは「英米の大手の買収対象」とも言われていただけに、「ホールドアップ(強奪)」と揶揄された今回の敵対的買収は、同社にとっては一種の賭けである。 だが、サノフィとアベンティスが合併して世界三位の製薬会社が誕生するとしても、ドイツでは違う風景が見えてしまう。アベンティスがサノフィに飲み込まれ、フランスが経営の主導権を握るようだと、ドイツ国内で働くアベンティス従業員九千人にリストラの恐怖を呼びおこす。独製薬労組のシュモルト氏は独紙のインタビューで「買収攻勢の裏に仏政府の後ろ盾がある」と語る。サノフィのドエック会長がシラク仏大統領に近い経営者という背景も、独側をさらに刺激する。

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