絶妙のタイミングだった。“反戦のヒロイン”となった英政府通信本部(GCHQ)の元翻訳官キャサリン・ガンさん(二九)に対する英政府機密法違反事件の起訴取り下げが発表された二月二十五日の翌朝に、より大きな盗聴疑惑が表面化したのだ。 次の主役はクレア・ショート元英国際開発相。BBCラジオのインタビューで、昨年のイラク開戦前に、英情報機関がアナン国連事務総長を盗聴していたと暴露したのである。 表面的には、イラク大量破壊兵器の情報操作疑惑の後遺症になお悩むブレア英政権を一層窮地に陥れた発言と見えた。英労働党左派のショート女史はそれほど首相を追い詰めたいのか、とも思えた。 ガンさんの事件は結局、ブレア政権の黒星に終わった。それに輪をかけるように、ショート発言は瞬く間に世界に波紋を広げた。 国連スポークスマンは、国連の設置に関する諸条約に違反していると発言。さらに、われもわれもと盗聴被害を訴える人が相次いだ。ブリクス前国連監視検証査察委員会(UNMOVIC)委員長やバトラー元国連大量破壊兵器廃棄特別委員会(UNSCOM)委員長、ガリ前国連事務総長らが、被害者として名乗りを上げたのである。 この欄でも何度か、第二次世界大戦中の米英通信傍受協力取り決め「UK・USA」を中心に、戦後オーストラリア、ニュージーランド、カナダが加わって通信傍受体制を運営してきたことに触れた。米国家安全保障局(NSA)と英GCHQを中核とする「エシュロン」のネットワークだ。

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