封切られたばかりのハリウッド映画が、安価な海賊版DVDで手に入る中国。それでもアメリカが制裁を発動しない背景には何があるのか。「カリスマ主婦」マーサ・スチュワート事件に見られるように、アメリカは経済犯罪については容赦しない。著作権などいわゆる知的財産権の保護と侵害への罰も、株式取り引き関連と並んで政府も議会も裁判所も徹底している。株式が「コーポレート・アメリカ」の根幹だとすれば、著作権や特許はアメリカの競争力の源泉、つまりアメリカン・スタンダードの代表格だからである。 知的財産でアメリカの対極にあるのが中国である。中国市場では海賊版が横行し、コンピューター・ソフトウエアの九二%(ソフトウエア著作権保護団体BSA=ビジネス・ソフトウエア・アライアンス=の二〇〇三年版報告)が違法コピーで、知的財産の「暗黒大陸」と呼ばれている。アメリカで封切りされたばかりの映画のDVDが、日本円換算百円余りで手に入る。北京では海賊版を路上販売しているところを警官隊が急襲し、密売人たちが脱兎の如く逃げ出す光景は日常茶飯事。だが警官は外国人が通る大通りだけ追いかけ、路地までは追跡しない。 海賊版に悩まされているのは日本企業も同じである。北京で「SONY」のテレビだと思って買ったら、Nが逆さまになっていたり、外見はトヨタ車そっくりだが、トヨタのロゴ・マークに二本だけ縦線を付け加えている。アメリカが強硬策をとらない以上、日本も愚痴をこぼす程度にとどまる。かつて日本の「不公正貿易慣行」をあますところなく挙げ報復し、知的所有権にいたっては最近でも遺伝子情報を盗んだとして日本人研究者の引き渡しを迫るアメリカが、なぜ中国の権利侵害に手をこまねくだけなのか。

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