大きく動き始めた北東アジアの構図

執筆者:平井久志2004年7月号

北東アジア情勢は、米大統領選を前に動きを止めたわけではない。小泉訪朝を批判するだけでは流れに取り残される。[ソウル発]小泉首相は五月二十二日、北朝鮮を再訪問したが、その評価が割れている。拉致問題での成果が被害者家族五人の日本到着だけに終わり、安否不明者十人の消息に関し進展がなかったことなどにより被害者家族などから厳しい批判が起きた。その半面、海外では「有意義な訪問だった」(パウエル米国務長官)、「すばらしい決断」(盧武鉉韓国大統領)と比較的高い評価を得ている。 小泉首相は五月二十二日の出発に先立ち羽田空港で「(拉致被害者の)八人のご家族が日本に帰国できるように全力を尽くす」としながら、同時に「主眼は現在の日本と北朝鮮の敵対関係を友好関係に、対立関係を協力関係にする、その大きな契機にしたい」と強調した。 小泉訪朝はこの二つの課題を追求したものだった。しかし、日本国内では圧倒的に前者の拉致問題に関心が集中し、後者の課題は付随的問題になってしまった。 今回の訪朝を論じる前に、二〇〇二年九月の第一回訪朝の際に小泉首相と金正日総書記の間で署名された平壌宣言を点検する必要がある。 平壌宣言は一部に不十分な面はあるが、日本の主体的な外交が生んだ数少ない成果の一つである。ここには(1)日朝国交正常化の早期実現(2)日本国民の生命と安全にかかわる懸案問題が再び生じないよう適切な措置(3)核問題の包括的な解決のためすべての国際的合意順守(4)ミサイル発射留保の継続(5)日朝間での安全保障問題の協議――などが含まれている。(2)は拉致問題を婉曲に表現したものだ。

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