前回は中国経済の成長が屈折せざるをえない不可避性について述べた。今回は国際制度づくりへの関与能力の低下について記述する。
 米国が第2次大戦後担ってきた国際システムへの挑戦という角度から、アジアインフラ投資銀行(AIIB)やシルクロード基金を通じての「一帯一路」構想がとりあげられることもあった。またその前には上海協力機構やBRICS銀行の設立もあった。いずれも世界第2位の経済大国になった中国による、米国の覇権主義への対抗という側面からの把握が先走っていたように思われる。しかしこうした立論が継続的に成立するためには以下に掲げる5つの要件が必要不可欠であった。

1 )世界経済の成長への中国の寄与率が3割程度はある。
2 )海外投資の継続を支える、輸出増などを通じた外資取得能力に疑問の余地がない。
3 )人民元の為替相場が強含みで、為替取引の自由化に踏み出しても中国の内部からの資金流出に脅かされることはない。
4 )経済制度の持続性を支えるマネジメント人材を海外に配しても、国内面において人材払拭の恐れはない。
5 )制度の受益者を海外において増大させることができる。

 ところが明らかとなった中国経済の屈折によって、5つの要件のすべてが一挙に怪しくなった。わずか6月から8月の2カ月余の期間に「中国の夢」は一旦消滅することになった。「邯鄲(かんたん)の夢」の盧生(ろせい)でなかったことを証明するためには、中国は「路線転換の罠」からの脱出を急がねばならない。

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