台湾・蔡英文氏「日米への接近」

執筆者:村上政俊2016年1月25日

 当選時や就任時に各国の政治リーダーが、具体的な国名をどのような順で言及するかは、非常に簡単だが明確に新政権の外交政策を占うことができる重要な指標の1つである。韓国大統領の就任演説を例にとると、李明博前大統領(2008年2月就任)までは、韓国にとっての周辺4大国である米国、日本、中国、ロシアをこの順で挙げるのが通例だったが、朴槿恵大統領(2013年2月就任)は、日本と中国を敢えて入れ替えて言及し、それまでにはなかった対中傾斜の片鱗を示した。
 蔡英文民主進歩党主席が台湾総統当選当日(1月16日)、記者会見の質疑応答で挙げた具体的な国名は、米国と日本だけであり、次期政権が日米両国及び日米同盟との連携に積極的であることを明示した【リンク】

 

日米との意思疎通へ素早い対応

 台湾側は意気込みだけではなく、5月20日の新政権発足に向けて、日米との間で早くも緊密な意思疎通を開始している。1月18日、蔡英文氏はバーンズ前国務副長官、バッガード米国在台協会(AIT、米国側窓口機関)理事長と民進党本部で会談した。
 バーンズ氏は現在、米国シンクタンクであるカーネギー国際平和財団理事長だが、2014年11月まで国務省ナンバー2の地位(職業外交官としては最上級位)にあった人物で、オバマ大統領から退任を直接慰留されるほど信頼されており【リンク】、オバマ政権の事実上の特使といえるだろう。
 これと対をなす動きが、呉釗燮民進党秘書長(幹事長に相当)の訪米である。蔡英文氏と同じく国立政治大学教授(専門は蔡英文氏が国際貿易、呉釗燮氏が国際関係)から政界に転身し、行政院大陸委員会主任(中台関係担当閣僚)の職は蔡英文から直接引き継いだ。オハイオ州立大学で博士号(著名な中国問題専門家のデビッド・ランプトンに師事)を取得し、陳水扁政権期には駐米国台北経済文化代表処代表(駐米大使に相当)も務めた知米派で、蔡英文氏の2015年の日米への「顔見世興行」(6月に訪米、10月に訪日)にはいずれにも随行した。その呉釗燮氏は今回の次期政権の方針「ご説明」訪米で、米国シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)とブルッキングス研究所共催のセミナー【リンク】で講演して蔡政権の外交政策を説明したほか、米国政府関係者との会談も予定している。

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