5月20日、台湾の総統に、白いスーツ姿の蔡英文・民進党主席が就任した。総統としての正式名称は「中華民国第14代総統」である。台湾を国として報じられない日本の新聞・テレビでは紹介されることのない名称だが、その就任式典は、紛れもなく「中華民国」の儀式であり、ネットの中継を眺めていて興味深い点がいくつもあった。

 

継承された「2つの国璽」

 3時間にわたって生中継された就任式典のなかで、特に私が目を引かれたのが、孫文の肖像と中華民国国旗に向けて宣誓文を読み上げた後、蔡英文が中華民国の「国璽(こくじ=国家の印章)」を受け取るところだった。国民党の馬英九総統が「前総統」と呼ばれたのは、この国璽を蔡英文が受け取って式典を終えてからだった。

 実は、台湾には2つの国璽がある。1つは「中華民国之璽」で、もう1つは「栄典之璽」である。どちらも国家権力の象徴であり、政権の継承を意味するものだ。前者は深い緑をたたえた翡翠で出来ており、重さ3.2キロある。国書や批准書、領事証書などの外交文書に使われる。後者は勲章などに用いられ、白く輝く羊脂玉で出来ており、重さは4.3キロある。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。