中東情勢というと、どうしてもシリアやイラクに関心が集まる。つまり中東地域の中の下位地域(sub-region)でいえば「レバント」地方や「肥沃な三日月地帯」の紛争に目が向きがちだ。米国とイランの対立や、イランとサウジアラビアの競合といった話題では「ペルシア湾岸」が問題になり、ホルムズ海峡の安定通航が焦点になる。

しかしこれらのすでに十分に注目され、対処が進んでいる問題に関わる地域よりも、次に、何か問題が生じるか、あるいはこれらの問題が山積する地域を避けて「機会」が生じうる地域に注目しておくことが、当欄の、あるいは『フォーサイト』という媒体の使命だと思う。新聞などで連日報道されるようになってからは、そちらに任せておけばいいと思う。

そのような観点からは、筆者が中東の中で注目している地域は「紅海岸地域」である。北はスエズ運河から、南はバーブル・マンデブ海峡とアデン湾までの、ヨーロッパから中東を経由してインドや中国までつながる海洋貿易の主要航路の要地であり、いくつもの地政学上の「チョークポイント」を抱える。

イランの台頭は、ペルシア湾を文字通り「ペルシアの」海としてしまいかねない。近代においてペルシア湾を「アラビア湾」と頑なに呼び続けてきたサウジアラビアやUAEなどGCC諸国も、ペルシア湾への依存を減らし、紅海を通商貿易の出入り口としてより重視していく傾向がある。

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